スタートアップ助成は令和3年度に新設された助成プログラムで、2年目に入った令和4年度第1回の本公募では203件の申請がありました。令和3年度は3回の公募を実施しましたが、その中で不採択となった事業の再申請が2割程度あり、申請内容がブラッシュアップされ、採択に至ったものも複数ありました。一方、申請者と主催者が異なっている、対象経費とならない経費が記載されている、事業の開始、終了が対象期間内になっていない等の書類の不備が散見されました。申請書の作成にあたっては、公募ガイドラインの申請要件等を事前に確認していただきますようお願いします。本助成では、都内での事業を初めて企画・主催する新進の個人・団体によるトライアルの事業、過去数回の実績を経て企画内容やキャリアの拡充を図るステップアップの事業、さらに、個人として実力を認められている芸術家が団体を結成し、新たな企画やプロデュースに着手する事業など、積極的なチャレンジを行う事業が採択となっています。また、事業の目指すべき目的が明確であり、それを実際にどのように具体化するのかが示されており、実現にあたっての予算やスケジュールが適切に計画されているものが採択となっています。一方、事業の目的と事業内容が適合していないものや、出演者やプログラム内容に未定要素が多く事業の具体性に欠ける申請は、採択には至りませんでした。不採択となった事業を再度申請することも可能です。令和4年度は4回の公募を予定しています。具体的に計画の練られた意欲的な申請に期待します。
《音楽分野》
音楽分野への申請の中心は昨年に引き続き、クラシック・現代音楽に関する企画となっており、今回も申請数全体の半数を占める結果となりました。一方でジャズやワールドミュージック、ポップスといった、クラシック以外の音楽シーンに展開する意欲的な申請が増えたこと、さらにはジャンルミクスチャーのプログラミングも増加傾向にあるといえます。採択となった申請案件においては、日程や実施会場、プログラムの内容が決定済、出演者がブッキング済と、申請段階において既に事業の実施が確定的である点が共通していました。また事業の実施を通して、芸術音楽分野およびその周辺領域に対しどのような好影響を発揮しうるのかという点について具体的な言及がなされていた点も、採択事業の申請書において共通して見られた特徴です。
《演劇分野》
20代と30代からの申請が全体の6割となり昨年に比べ若干減少傾向ですが、20代前半の在学中の学生からの申請が増えるなど年代層は広がりました。また全体の3分の2が初申請となるなど、新たな層からの申請があったのも特徴的です。小劇場演劇を中心に、ミュージカルや音楽劇、朗読劇など幅広い申請がありました。採択事業に共通しているのは、事業の具体的内容と目的が一致しており自身の言葉で企画趣旨や狙いを表現できていることです。独自の演出手法や表現方法にチャレンジする意欲的な取り組みや、俳優がプロデューサーなどに挑戦する新たなプロジェクトで実現性や将来性が認められる企画が採択に至りました。また作品や公演の具体性が乏しく、出演、予算、計画等が不明瞭で実現性に欠ける企画は採択には至りませんでした。
《舞踊分野》
申請者は20代から30代が中心で、ジャンルとしてはコンテンポラリーダンス、ストリートダンス、大道芸、舞踏、バレエ、民族舞踊、マジック等の幅広い申請がありました。「国際的な芸術交流活動」の占める割合が昨年度より増加し、コロナ禍においても海外の事業が動いている状況がうかがえます。独自の観点から企画が立てられ、計画の具体性と実施の意義を明確に示している申請が採択となっています。アイデアは斬新なものの実現するための手法に更なる工夫が必要なものは採択には至りませんでした。事業実施のプロセスを具体的に見通し、計画を練り直しての再チャレンジを期待します。また、予算書や企画書等の不足等、書類不備の申請が目立ちました。公募ガイドラインや申請書のフォーマットは毎回更新されていますので、同じ企画を再度申請する場合も最新の公募ガイドライン及び申請書類を確認するようにしてください。
《美術・映像分野》
いわゆる若手作家の個展にとどまらず、グループで培った知見をソロ活動において踏み出していく挑戦をはじめ、申請者の経験を背景とした、説得力のある具体的なチャレンジをしていくものが採択されました。他方、助成対象外となる作品販売や販促活動が含まれていたり、企画書を添付していないもの、また団体での申請の場合に申請団体自身の過去の実績を提出すべきところ、団体構成員個人の実績や法人化以前の前身団体の実績しか提出されていないものなど、書類不備が目立ちました。また、申請者自身の「新たな芸術創造活動」として挑戦するポイントが見えにくいものや、事業スケジュール等の計画の見通しが十分でないもの、また研鑽・リサーチにとどまる活動は不採択となっています。なお、当助成の趣旨および審査の観点には「社会・地域への貢献」や「創造環境整備への貢献」は含まれておりませんのでご留意ください。
《伝統芸能分野》
能楽、長唄、筝曲、日本舞踊、創作邦楽等、多様な種目に及ぶ12件の申請がありました。申請者の約8割が、伝統芸能で若手と呼ばれる30代・40代でした。この世代が中心となった申請事業で、活動に継続性があり、計画の実現性が高いものが採択に至っています。また、新しいことを始めようという若手の意識を企画に反映した事業や、他分野とのコラボレーション等、挑戦的な事業も複数採択しています。一方、外的評価の確立された中堅層の演者による継続的な事業や、伝統芸能のファンや支援者による普及活動の要素が強い事業については本助成の趣旨に適さないため、採択には至りませんでした。
《複合分野》
「核となる分野を特定できない芸術活動」を対象とする複合分野には27件の申請がありました。申請者は個人が団体より多く、申請内容は多岐にわたっています。複数領域のアーティストによる協働でジャンルの枠を超えた新たな創作を行うコラボレーション企画、音楽と舞踊のコラボレーションを契機とし、音楽領域の新たな可能性を問う事業などが採択されました。