スタートアップ助成は、東京の芸術シーンで活動を展開していこうとする新進の芸術家や芸術団体等がチャレンジする新たな芸術活動を支援する目的で、令和3年度に開始した助成制度です。令和5年度第1回の本公募では、273件の申請があり、前回(令和4年度第4回)の 190 件から大幅に増加しました。今回から申請方法が郵送からオンラインに変わり、申請に係る手間が減少したことも件数の増加に繋がったと考えられます。その半面、申請要件の不備や事業の内容、目的、取組の記載が不明瞭な申請が目立ちました。申請書の作成にあたっては、公募ガイドラインやQ&Aを事前に良くご確認いただくことをお願いします。オンライン申請フォームでは、どの画面にも公募ガイドラインのリンクがありますので、申請フォーム作成中でも、疑義がある際には公募ガイドラインを参照していただくことをお勧めします。本助成では、都内での事業を初めて企画・主催する新進の個人・団体によるトライアルの事業、過去数回の実績を経て企画内容やキャリアの拡充を図るステップアップの事業、さらに、個人として実力を認められている芸術家が団体を結成し、新たな企画やプロデュースに着手する事業など、積極的なチャレンジを行う事業が採択となっています。また、事業の目指すべき目的が明確であり、それを実際にどのように具体化するのかが示されており、実現にあたっての予算やスケジュールが適切に計画されているものが採択となっています。1度不採択となった事業でもブラッシュアップして再申請が可能です。対象期間を確認の上、事業の具体性や実現性を明確にして適切な時期にご申請いただきますようお願いします。
《音楽分野》
今回の申請は86件で、うち11件が採択となりました。採択に至ったのは、作曲家コレクティブによるデンマークでの国際事業、日本の大正時代のフェミニズム実践に焦点を当てたコンサート、人工知能という観点から自動演奏ピアノを捉え直す事業など、その内容やジャンルは多岐に渡りますが、いずれも独自性が高く、事業のコンセプトや内容が明確に記された申請です。中でも、現役学生による団体や、吹奏楽への問題意識を持った団体が目立ちました。一方、不採択となった事業の中には、独自性やチャレンジ性を重視するスタートアップ助成の趣旨には必ずしもそぐわない、普及や営利を主目的とした事業内容の申請も多数ありました。アーツカウンシル東京では、事業の内容や目的に即して複数の助成プログラムを展開しておりますので、申請予定の事業がどの助成プログラムに合うか、事前によくご確認ください。また、収支予算書の「当助成申請額」に記載がなく助成金が不要な収支構造となっている申請、団体の設立時期や過去実績が資格を満たしていない申請など、要件不備で採択に至らなかった申請も数多くありました。申請の際は、公募ガイドラインをご参照のうえ、すべての要件を問題なく満たしているか、ご確認をお願いします。過去に不採択となっていても、よく練り直された再申請で採択に至った事業も複数ございますので、ぜひ再チャレンジをお待ちしています。
《演劇分野》
申請件数は63件で9件が採択となっています。採択率は 14.3%です。採択された事業は演劇を主軸としつつも、専門性の異なるアーティストとの共同制作事業、オムニバス形式での短編作品の上演、上演と展示やトークなど複数の企画を組み合わせた事業など多種多様です。また俳優や演出家、脚本家としてキャリアを積み、自らが主宰する団体や公演で新たな創作に挑戦する事業なども採択されました。実施計画や事業内容が明確であっても、事業目的が不明瞭で内容と一致していない事業や、申請書に書き込みが少ないため独自性やチャレンジ性を検討することが難しい事業は、採択に至りませんでした。申請書内の「事業の具体的内容」「事業の目的」「事業の取組」が一貫していない申請も目立ちました。今回不採択となった事業でも申請要件を満たしていれば同じ事業で再申請が可能です。ガイドラインを参照し、よく練られた意欲的な申請をお待ちしています。
《舞踊分野》
22件の申請があり、9件が採択となりました。採択された事業は、コンテンポラリーダンス、バレエ、舞踏に加え、他分野とのコラボレーション企画も複数ありました。これまで名のあるカンパニーや振付家のもとで経験を積み、その経験をもとに独自の視点で企画したチャレンジ性のある事業が採択に至ったほか、実績が少ない事業者であっても、自身の表現探求に意欲的で、発展性の期待できる企画の申請がありました。いずれも、既存の表現に縛られない独自の視点をもち、企画内容が具体的であるものが高く評価されています。一方、事業の目的やコンセプトに独自性やチャレンジ性が認められても、実施計画や事業内容に不明瞭な点があるものは、具体性・実現性の観点で評価が下がり不採択となっています。また、レッスンや海外研修などを主な目的とするものについても、本助成の主旨とは合致しないため不採択となりました。
《美術・映像分野》
申請件数は67件で、うち 10件が採択となり過去2番目に多い採択数となりました。多様なメディアを用いジャンル横断的に活動するアーティストや複数ジャンルのアーティストたちによる協働の企画が増えている中、申請者自身の活動テーマの延長線上にありながら、表現の大きな飛躍を試みる挑戦的な事業が採択に至りました。表現形式としては、映像作品や映像を用いたインスタレーション企画が複数採択されました。不採択となった事業の中には、スタートアップ助成よりも、アーツカウンシル東京の他の助成プログラム (「東京芸術文化発信助成【カテゴリーIII 芸術創造環境の向上に資する事業】」「芸術文化による社会支援助成」「地域芸術文化活動応援助成」 )の趣旨に合致するものが多くありました。また、すでに完成した映画の劇場公開宣伝イベントに当たる申請も複数ありましたが、本助成の趣旨である創造活動に 当たらないため不採択となりました。要件不備の申請も多く見受けられました。申請団体の過去の実績が確認できないもの、申請者が主催者でないもの、製作する作品を販売するもの、収支予算が黒字になるもの、事業期間が助成対象期間外であるものは対象になりませんので、ご留意をお願いします。
《伝統芸能分野》
今回は13件の申請があり、3件が採択に至りました。いずれも事業の内容が明確で、計画に無理がない実現性の高い事業でした。このうち1件は 複合的な視点をもつ挑戦的な事業でしたが、事業の具体的内容・目的・取組の3つの記入項目が丁寧 に書き分けられており、意図の伝わりやすい説明になっていました。また企画書にも工夫があり、事業の全体像を明確に読み取ることができました。不採択となった申請には、説明が不明瞭なものが目立ちました。演目等の内容の詳細が申請時に決定していない場合でも、演目選択の基準や方向性等を説明することは可能です。「 提出 」 ボタンを押す前に内容を見直し、ご自身の意図が客観的に伝わっているかどうかをご確認の上ご提出くださいますようお願いします。
《複合分野》
今回は22件の申請があり、3件が採択となりました。身体を使ったパフォーマンスの企画、映像・音楽・インスタレーションなど、多ジャンルのコラボレーション企画、地域コミュニティと繋がりながら実施するフェスティバルなど、多様な事業の申請があり、インクルーシブなものや AI を使った企画など、社会的に注目されるテーマや技術を用いたものなどもありました。その中で、各分野で実績を積んできたアーティスト、プロデューサーたちが、独自性・チャレンジ性の高い事業を実施するために立ち上げた団体による事業などが採択されています。