スタートアップ助成は令和3年度に新設された助成制度です。2年目に入り、令和4年度 第3回の本公募では、119件の申請がありました。全体の傾向としては、企画面、予算面ともに着実な計画の練られた申請が増加した半面、公募ガイドラインに記載されている申請の要件に合わないものも見られました。申請書の作成にあたっては、公募ガイドラインや Q&A を事前に良くご確認ください。本助成では、都内での事業を初めて企画・主催する新進の個人・団体によるトライアルの事業、過去数回の実績を経て企画内容やキャリアの拡充を図るステップアップの事業、さらに、個人として実力を認められている芸術家が団体を結成し、新たな企画やプロデュースに着手する事業など、積極的なチャレンジを行う事業が採択となっています。また、事業の目指すべき目的が明確であり、それを実際にどのように具体化するのかが示されており、実現にあたっての予算やスケジュールが適切に計画されているものが採択となっています。今回、令和 4年度第3回の公募でも1度不採択となった事業をブラッシュアップして再申請し、採択に至ったものが複数ありました。スタートアップ助成は年4回の公募がありますので、対象期間を確認の上、事業の具体性や実現性を明確にして再申請することも可能です。具体的に計画の練られた意欲的な申請に期待します。
《音楽分野》
27件の申請があり、うち採択は8件、採択率は29.6%でした。採択された事業は、若手音楽家による現代音楽アンサンブルの公演、3名の若手作曲家への新曲委嘱をおこなうフルートとエレクトロニクスの公演、声楽とピアノトリオという新たな編成による室内楽、映像作家がプロデュースするジャズの企画、インディーロックに根ざしたソロ活動、ポップスのユニットによる国際的な事業などで、ジャンルや申請者の経歴、事業内容は多岐にわたっています。いずれも、自らの過去の活動の積み重ねを踏まえ、高い実現性を担保しつつ、新たなステップアップをはかろうとする挑戦性の高い事業ばかりです。また、教育普及や地域振興、商業的な利益を第一の目的に掲げる申請も複数ありましたが、いずれも本助成の審査の観点に鑑み、採択に至りませんでした。クラシック音楽/ポピュラー音楽の別を問わず、既存の音楽やそれを取り巻く状況に対する自身の視点やアプローチが明確に言語化され、企画内容に具体的に落とし込まれている申請が採択となっています。
《演劇分野》
演劇分野としては今年度最多の40件の申請がありました。小劇場演劇を中心に、ミュージカル、翻訳劇、パフォーマンス演劇や映像系、体験型といった幅広いジャンルから申請があり、採択に至った15件にもその多様さが反映されています。これまで同様に俳優が申請者となる企画が複数ありました。また、ショーケースやオムニバス形式の企画がみられたのは今回特徴的でした。総じて内容が充実した事業が多く、動機やアイデアが自らの言葉で明確に語られ、創作手法やコンセプトが挑戦的だったり各人のキャリアにおけるチャレンジ性があり、会場やスケジュール、キャストだけでなくスタッフも決定しているなど実現性が高い申請が多かったことが、これまでより高い採択率37.5%に繋がりました。一方でなぜその戯曲やテーマに取り組むのかが不明瞭で、企画内容と目的が一致せず客観性に欠けるものは採択に至りませんでした。企画の核となる部分を自らの言葉で具体的に語る意欲的な申請をお待ちしています。
《舞踊分野》
11件の申請があり、ジャンルはコンテンポラリーダンスが最も多く、次いでバレエ、フラメンコ、ストリートダンス等の申請がありました。このうち事業内容と申請者の目的意識が明確に記されており、アーティストとしてのキャリアアップも見込める6件が採択に至りました。また、今回は企画書の同封されていない申請が多数見られましたが、公募ガイドライン p.11 の C「(8)申請事業に関する資料」にもあるように企画書の提出は必須です。企画書の文字数は問いませんが、作品コンセプトや企画意図、創作手法など申請書に書き切れない重要なポイントがあればぜひ記載してください。なお、本助成は新進のアーティストがチャレンジする新たな芸術活動が対象ですが、企画内容に奇をてらったものがある必要はありません。自身にとってのチャレンジが何であるかが明確にされた企画内容の申請を期待しています。
《美術・映像分野》
24件の申請があり、採択は6件となり、採択率は過去最高となりました。現代的なテーマを一貫して持ってリサーチを続けてきた成果を具体的に提示する活動や、申請者が自身の過去作品から一歩を踏み出し、新たな表現を目指そうとしていることが申請書類上で明確にされている事業、参加スタッフ名が具体的に挙がり、制作から公開に至るまで十分に計画が練られた実現性の高い事業が、採択に至りました。前回に比べ申請件数は増えたものの、3分の1が要件不備でした。団体申請で必要とされている団体実績が確認できない、適切な決算・会計書類が未提出、収支予算書上でスタートアップ助成金が無くても収支がつりあっている(つまり助成を受けるとその分黒字になる)、作品完成・公開が助成対象期間後となる、といった不備が目立ちました。また社会的意義があってもスタートアップ助成の支援対象である創造活動の要素が薄い事業や、挑戦性が低い事業は採択に至りませんでした。公募ガイドラインの必要書類をよく確認したうえで、過去の採択結果の概況もご一読いただき、自身の事業内容が申請する助成プログラムの趣旨に合っているか、他の助成プログラムとも比較・検討のうえご申請ください。
《伝統芸能分野》
5件の申請があり、申請書の内容が充実した事業と、伝統芸能の枠に収まらない挑戦的な事業の2件が採択となりましたが、伝統芸能分野の申請件数は、前回・今回ともに減少傾向がみられます。当助成では、新たな芸術創造活動を対象としており、伝統芸能の体験、初心者向けワークショップ等、特定の種目の普及を主目的とする活動は採択に至りませんでした。独自性、チャレンジ性のある幅広い分野での申請をお待ちしています。
《複合分野》
「核となる分野を特定できない芸術活動」を対象とする複合分野には12件の申請がありました。申請者の年代は20代および30代前半が中心となっていますが、中には10代の方からの申請もありました。採択に至ったのは2件で、いずれも、複合的な芸術表現を志向しつつ、内容やコンセプトが具体的かつ明快な事業です。なぜその表現形態を取る必要があるのか、それは具体的にどのようなアウトプットになるのか、その実現のためにはどのように準備を進める必要があるのか、といった点について、明確化された申請を期待します。