スタートアップ助成は令和3年度に新設された助成制度です。2年目の令和4年度第4回の本公募では、190件の申請がありました。令和4年度第2回(88件)、第3回(119件)と申請件数が減少していましたが、今回は申請件数の増加がみられました。全体の傾向としては、企画面、予算面ともに着実な計画の練られた申請が増加したこと、過去の申請者の再チャレンジが散見されたことがありました。公募ガイドラインに記載されている申請の要件に合わないものは一定数みられるものの、その数の減少がみられました。申請書の作成にあたっては、公募ガイドラインやQ&Aを事前に良くご確認いただくことをお願いします。本助成では、都内での事業を初めて企画・主催する新進の個人・団体によるトライアルの事業、過去数回の実績を経て企画内容やキャリアの拡充を図るステップアップの事業、さらに、個人として実力を認められている芸術家が団体を結成し、新たな企画やプロデュースに着手する事業など、積極的なチャレンジを行う事業が採択となっています。また、事業の目指すべき目的が明確であり、それを実際にどのように具体化するのかが示されており、実現にあたっての予算やスケジュールが適切に計画されているものが採択となっています。令和5(2023)年度も、スタートアップ助成は年4回の公募を予定しており、申請方法はオンラインに変更になります。申請にあたっては、対象期間を確認の上、事業の具体性や実現性を明確にして適切な時期にご申請いただきますようお願いします。
《音楽分野》
申請件数は57件、うち14件が採択となっています。採択された事業は、聴衆参加型のインプロビゼーション公演、日本歌曲に着想を得て新たに手掛けられる創作オペラ、古典から現代にいたるフランス合唱作品を取り上げるコンサート、若手作曲家によるチェロとコントラバスのデュオ企画、銭湯を舞台とする回遊型演奏会など多種多様です。音楽分野の申請傾向としては、現役学部生・大学院生からの申請が増加している点が挙げられます。申請に際する年齢制限がないこと、在学中から挑戦できることへの理解が徐々に広まっている印象です。またスタートアップ助成への申請歴のある申請が全体のおよそ2割を占めました。その中でも、再挑戦から採択に至った申請は、事業の目的やプログラミングの独自性や挑戦性に対する説得力が高く、過去の申請内容に対する省察をふまえ、事業それ自体がブラッシュアップされていた点が共通しています。
《演劇分野》
申請件数は53件で17件が採択となり、過去最高の採択件数となりました。20代から30代の申請が全体の約7割を占め、これまで演劇活動で研鑽を積んだ申請者が初めて行う主催公演など、キャリアにおいて新たな取組に挑戦する事業が8件採択に至りました。過去に不採択となった事業をブラッシュアップして今回採択された事業や、映像演劇、体験型演劇、フェスティバル実施に向けたプレ事業など、様々な企画が採択されています。事業内容が具体的かつ目的が明確で、表現内容の独自性が申請書内で言語化できている事業が採択に繋がっています。ガイドラインにある「審査の観点」のうち、どの点にあてはまる事業なのかが伝わるように申請書を記載いただければと思います。都内の事業の申請で、申請者が主催者と異なっていたり、予算書の間違いもあるため、提出前に再度ご確認をお願いします。
《舞踊分野》
20件の申請があり、6件が採択となりました。コンテンポラリーダンス、バレエ、舞踏など申請の多かったジャンルでは、過去に申請のあった事業者や参加者が含まれる事業も多数見られました。その中で、ダンサー・振付家として着実にキャリアを積み、自らが主宰する団体や公演で新たな作品作りやキャリアステージに挑戦する事業などが採択に至りました。中でも、独自の着眼点や挑戦のポイントが明確に示されており、実力のある出演者・スタッフを揃え、観客へのアプローチ方法まで含めて具体的に記載されている事業が高く評価されました。逆に、事業の目的やコンセプトは明確であっても、実施計画や事業内容に不明瞭な点があるもの、それらを裏付ける書類が不足しているものについては、具体性・実現性の観点で評価が下がりました。また、教育普及を主な目的としたものや、核となる人物の活動や評価が既に確立しており、事業自体も申請事業以前に広く展開しているものについては、本助成の趣旨とは合致しないため不採択となりました。
《美術・映像分野》
前回、前々回の公募に比べ申請件数が増え、33件の申請がありました。採択件数は9件、採択率は27.3%と過去最高になっています。今回は作家が新たな一歩を踏み出そうとして、それまでの研鑚を展示に昇華する事業が評価されると同時に、ある程度評価を受けている作家でも、自身のルーツに向けた新たな展開を試みようとする企画が採択されました。海外招聘事業や海外作家との共同制作の事業も増え、ポスト・コロナの風が感じられました。不採択となった案件については、うち15%が要件不備でした。ガイドラインの「助成対象とならない事業」「提出書類・資料」をよく読み必要書類を提出してください。また「審査の観点」を参照しながら、事業には誰が参加し、どのような作品、イベントになるのか、できるだけ具体的に書き、申請する事業内容が伝わるようにご記載ください。また、自身の事業内容が、スタートアップ助成の趣旨に合っているか、アーツカウンシル東京の他の助成プログラムと比較・検討のうえご申請をお願いいたします。
《伝統芸能分野》
今回は11件の申請がありました。このうち国際的な事業の申請が3件あり、新型コロナウイルスの感染拡大が落ちついて、海外での活動が増えてきた状況がうかがえます。今回採択に至った5件は、伝統芸能の将来を担う若手によるはじめての主催公演のほか、評価が確立しつつある中堅層の申請者による挑戦性の高い事業でした。不採択になった事業には、具体的内容だけでなくテーマそのものが定まっていないものや、日本文化の普及目的の要素が強い内容のものがありました。当助成は、芸術創造活動のチャレンジを支えるための助成です。申請事業のどういう点がチャレンジなのか、申請者がどのような成長を遂げるために行う企画なのか、ご自身の将来の活躍を見据えた、ステップアップにつながる事業であることが伝わってくる申請に期待します。
《複合分野》
今回、複合分野での申請は16件ありました。採択は1件となりましたが、独自性があり、実現性の高い申請が採択となっています。1つの分野にとらわれない分野横断型や新たな表現方法を作り出そうとしているなどチャレンジ性はあるものの、具体性、実現性が見込まれない申請もみられました。また、過去の実績に団体名が確認できないなど、要件不備のものも見られたため、申請の際は公募ガイドラインの事業及び申請者の要件、審査の観点を確認し、説得力のある申請書の作成をお願いします。