今回は、638件の申請があり、60件を採択いたしました(採択率9.4%)。助成予定総額36,197千円です。
全分野にわたる傾向として、申請者や申請団体の構成員の年齢層は20代から30代が中心となっており、大学在学中又は卒業して間もない個人や団体からの申請も多くありました。申請事業内容は、都内での事業を初めて企画・主催する新進の個人・団体によるトライアルの事業、また過去数回の実績を経て企画内容やキャリアの拡充を図るステップアップの事業、さらに、個人としては既に実力を認められている芸術家が団体を結成し、新たな企画やプロデュースに着手する事業など、積極的なチャレンジを行う事業が採択となっています。
また、事業のなかで目指すこと、及び、それを実際にどのように具体化するのかが明確に示されており、実現にあたっての予算やスケジュールが適切に計画されているものが採択となっています。一方、創作の着想には独自性が認められるものの、事業の目的と事業内容が適合していないものや、出演者やプログラム内容に未定要素が多く事業の具体性に欠ける申請は、採択には至りませんでした。
《音楽分野》
申請者の年齢層は20代から30代が全体の3分の2を占めました。申請事業はクラシック及び現代音楽にかかる内容が4割強と多く、作曲家と演奏家など同世代の音楽家同士による協働的な挑戦が積極的に取り組まれている印象です。一方で、音楽分野全体に見る申請ジャンル自体は多岐に渡り、ジャズやポップス、民族音楽、邦楽、サウンドクリエーション等、幅広い内容の申請がありました。独自の発想を思いつきに留まらせず、事業として実現し成功させるべく丁寧に計画の練られた企画が採択されています。
《演劇分野》
申請者は20代から30代が全体の3分の2を占めました。申請事業は小劇場を中心に、ミュージカル、音楽劇、人形劇、新劇、新派、分野横断型と多岐にわたっています。また、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、リアルな上演だけでなく、オンライン配信を組み合わせた内容が多く見られました。団体運営の在り方や、創作手法への言及が多かったことも特徴です。申請者の目指す表現についてこれまでの活動や先人の業績を踏まえながら明確に提示されている事業や、独自の表現手法にチャレンジする意欲的な取り組みが採択されています。
《舞踊分野》
少ない申請件数ながら水準の高い申請内容が多く、45件中8件が採択となりました。コンテンポラリーダンスが半数を占めたほか、大道芸、舞踏、民族舞踊、ストリートダンスなど幅広く申請がありました。ミッドキャリアの芸術家が新たに結成する団体からの申請にはチャレンジ性・実現性ともに高く評価できるものが多く、また若手芸術家からの申請には具体性をより高めて再度チャレンジしてほしい案件も多く見られました。劇場外の空間を活用したサイトスペシフィックな企画や、自身のダンスや作品コンセプトを丁寧に言語化した申請が多く、コロナ禍において自身の活動内容や活動場所を問い直す傾向が見られました。
《美術・映像分野》
申請者は20代から30代が全体の3分の2でした。また、コロナ禍の状況を反映し、映像配信を中心としたオンラインでの取り組みが約4分の1と目立ちました。美術領域では、個人や小グループの新進作家、批評家やキュレーターらによる、新たな表現を目指す具体的で練られた初挑戦企画のほか、中堅作家による新たなコラボレーションや新ジャンル等へ挑戦する企画においては次世代のクリエイターにも好影響が見込まれるものが採択に至りました。映像領域においては、期間中のオンライン配信のみにとどまらない、計画的・継続的な発展が見込める事業が採択されています。
《伝統芸能分野》
申請件数は33件ながら雅楽、能楽、地歌筝曲、尺八、長唄、落語、講談、日本舞踊、創作邦楽、現代邦楽など幅広い種目から申請があり、20代から30代の新進芸術家が中心となる企画が約半数にのぼりました。全申請の実施場所が都内で、国際的な芸術交流活動の申請がなかったことはコロナ禍の影響と思われます。また演奏家として実績のある個人が作曲家としての活動を展開する企画や、初のセルフ・プロデュースに挑戦する企画、流派・職分を越えた取り組みなど、伝統芸能分野に新たな動きをもたらす試みが目立ちました。
《複合分野》
「核となる分野を特定できない芸術活動」を対象とする複合分野には48件の申請がありました。申請内容は多岐にわたり、日本の舞踏とドイツのポストドラマ演劇の手法を用いたパフォーマンス、ファッションに着想を得たインスタレーション作品をAR・VR空間設計ソフトにより発表するオンライン展示、スピーカーの身体性に着目したサウンドインスタレーション、邦楽の分野で研鑽を積んだ音楽家と若手振付家が試みる実験的な映像作品など、複数領域の芸術家が対等な立場で参画する企画等が採択となっています。